書いた人:アルビレオ(2004-02-01)
昼休み、いつものように何かを期待して中庭に行ってみたが知っている顔はるり姉だけだった。
「なんでるり姉の神風イベントはないんだろう……」
「うん?何の話?」
「い、いや、なんでもないよ」
「ところでさあ、今年は貰えそうなの?」
「へ?何を?」
「チョコレートよ。去年はゼロだったよね」
「うるさいなぁ。貰えるかどうか今からわかるわけないよ。だいたいるり姉には関係ないだろ」
「かわいい弟を心配してやってるというのに……」
「そうやって、からかいたいだけじゃないか」
「おっ、有力候補発見!」
るり姉が見ている方に振り返ってみると、神谷さんがこちらに歩いてきていた。
「2人とも、寒いのにこんなところで……」
「ちょうどいいわ、菜由ちゃんはバレンタインデーのチョコを誰にあげるつもり?」
僕もいるのに、いきなり単刀直入に聞くるり姉。期待しながらも答えを聞くのが少し怖い。
神谷さんはそんな僕の表情をうかがうと、少しニヤリとしてから答えた。
「ああ、パソコン部のみんなに配るつもりだから、ついでにあなたの分も買っとくわ。安心しなさいよ」
ついでかよ―――と思いながらもとりあえずホッとした。
ところが、それを聞いたるり姉の余計な挑発が始まった。
「そうよね〜、買って済ませるわよね〜、菜由ちゃんがチョコを手作りできるなんてありそうにない話だしね〜」
神谷さんがムッとして反論する。
「作れないんじゃなくて作らないんです。部員の人数分作ると大変だから」
「だったら、こいつに渡す分ぐらい手作りできるでしょう?できないならできないって正直に言いなさいよ」
「今まで作ったことはないけど、やろうと思えばそれくらいできますよ。そう言うるりさんは作れるんですか?」
神谷さんも反撃。そろそろ逃げ出したくなってきた。
「私は作ったことあるわよ。証人もここにいるわ」
「ああ。証人兼犠牲者だけどな」
「余計なこと言うなっ!でもまあ、今なら菜由ちゃんよりはちゃんとしたチョコが作れると思うわよ」
「そこまで言うんなら勝負しますか?」
やめてくれ。
「ほ〜う、受けて立とうじゃない。覚悟しなさいよ!」
「それじゃあ、2月14日にお互いの作ったチョコレートで勝負を決めましょう!スゴイの作って、ほえづらかかせてやるんだから!!」
いや、スゴイのなんていらない。普通のでいいです。
「作ったことないくせに、この後輩はずいぶん大きな口たたくわね」
「そういうセリフはまともなものを作ってからの方がいいですよ、先輩」
「ご忠告ありがとう。バレンタインデーが楽しみね」
もう2人とも、誰に渡すとかは眼中にないらしい。
またろくでもないことになってきたと途方に暮れていると、神谷さんが僕に声をかけてきた。
「そういうわけだから、明日までにチョコ作りの本を適当に買ってきてよ」
「へ?なんで僕が?」
「わたしはその手の本を買ったことないから、どれがいいのかわかんないのよ。あなたならいつも料理してるんだから、見当がつくでしょう?」
「僕は料理はするけどお菓子とかは…」
「それでもわたしよりはマシでしょう。頼んだわよ、いいわね?」
そこまで言うと、返事も聞かずにさっさと行ってしまった。
「ったく、なんでいちいち挑発するんだよ」
「あんたが手作りチョコを貰えるようにしてあげたのよ。妙なことになっちゃったけど」
「だったら勝負なんて受けなきゃいいだろ」
「それとこれとは別よ。ほえづらをかくのはどっちか思い知らせてやる!!
念のため言っとくけど、菜由ちゃんをわざと勝たせようとしたら承知しないからねっ!」
こんなことに巻き込まれるくらいなら、誰からも貰えない方がまだよかったかもしれない。
今年は過去最悪のバレンタインデーになりそうだ。トホホ―――
≪後編につづく≫