TrueLoveStory - バレンタイン決戦 =後編= ≫

書いた人:アルビレオ(2004-02-14)


テレビを見ていると、焦げ臭い匂いがただよってきた。急いで台所に飛んでいく。
「チョコレートを直接火にかけるなーっ!」
るり姉はもう鍋を火からおろしていたが、鍋の中のチョコレートはしっかり焦げていた。
「本にも湯煎しろって書いてあっただろ」
「だって、この方が早いじゃない」
「お湯で溶かせって書いてあるのは、そうする必要があるからだよ」
「めんどくさいなぁ……ねえ、手伝ってよ」
「神谷さんと勝負してるんだろ、僕が手伝うわけにはいかないよ」
「ちょっとぐらいはいいじゃない。手伝ってくれたら、あんたが忘れている大事なことを教えてあげるから」
「大事なこと?」
「それじゃあこれから教えることを忘れていたと認めるなら私を手伝うこと。いいわね?」
「わかったよ。でも、くだらないことだったら手伝わないぞ」

―――こうして、るり姉のチョコレート作りを手伝うはめになった。
僕も初めてなので悪戦苦闘。チョコレートがここまで温度に敏感だとは思ってなかった。
それなのにるり姉は温度計すら用意していなかった。まったく。

2月14日、勝負の日は土曜で学校は休みなので神谷さんが僕の家に来ることになっていた。
約束より30分ほど遅れて、やっと神谷さん到着。見るからに自信がなさそうな顔つきだ。

「それじゃ、お互いのチョコを出しましょう」
そう言いながらるり姉が自分の分を取り出す。神谷さんもその声に従って袋からチョコを出した。
並べてみると、どちらも形はきれいだとはいえないけど無難なものになっている。
ただ、神谷さんのは明らかにつやがなく、あちこちに斑点がある。
それを見たるり姉は勝ち誇ったような表情を隠しきれないまま、
「んー?とにかく食べてみましょう」
といって3人にチョコを取り分けた。
神谷さんのも味はそれほど悪くはない。
次はるり姉の(といっても、ほとんど僕が作ったんだけど)を口に入れると―――すっぱい。中に変なものが入っている。
「うわっ、なんだこれ!」
そう叫ぶ僕を見てるり姉がニヤリと笑った。
「当たりを引いたわね」
「いったい何を入れたんだ?」
「らっきょう」
「いつのまに……」
まったく、とんでもないことをするな。

そのやりとりを黙って見ていた神谷さんが
「ねえ、あなた手伝ったでしょう」
突然の言葉に驚いてしまった。
「ええっ!なんでわかったの?」
「やっぱり……かまをかけてみただけよ」
「このバカッ!あっさりバラしてんじゃないっ!!」
るり姉からもカミナリが落ちる。

2人に睨みつけられて何も言えなくなる。悪いのは僕だけか?
しばらくするとるり姉がため息をつきながら、
「あーあ、バレちゃったらしょうがないわね。この勝負、なしなし」
「ズルしたんだから反則負けでしょう?わたしの勝ちじゃないの?」
食い下がる神谷さんに、るり姉はいかにもめんどくさそうな顔をする。おとなしく負けを認めてやれよ。
「ちょっと、聞いてるんですか?」
神谷さんもるり姉が負けを認めない限り収まりそうにない。

そのときるり姉が思い出したように僕に声をかけた。
「そうだ、あんた菜由ちゃんに渡すものがあったんじゃない?」
「ああ、そうだった」
僕も思い出して部屋の隅に置いておいた包みを取りに行く。
「神谷さん、これ。誕生日おめでとう」
「あ……ありがとう。わたしも今日の勝負で頭がいっぱいだったから忘れてた」
いや、僕もるり姉から教えてもらわなかったら気がつかなかったけどね。そのせいでチョコ作りを手伝わされたしな。
「開けていい?」
「どうぞ」

神谷さんは嬉しそうに包みを開け始める。ここまで喜んでくれると僕も嬉しい。
るり姉の方を見ると、うまくごまかせたからかニヤニヤと笑っている。

「なによこれーっ!」
神谷さんの声に思わず振り返る。そんな叫び声を出すようなものじゃないはずなんだけど。
神谷さんが手にしていたのは、なんとチョコレートの詰め合わせだった。
「よりによってチョコレート?わたしはこの誕生日のせいで毎年のようにチョコばっかりもらってんのよ!
しかも今年は自分の失敗作を処分するためにイヤというほど食べてるのにっ!!」
そんなバカな。僕はマウスパッドを―――いや、さっき手に持ったときマウスパッドにしては重かったような?

さては―――と、るり姉の方を見ようとした瞬間、そのバカ姉貴の大爆笑する声が部屋に響き渡った。
ニヤニヤ笑いの真相はこれかよ。

背景画像提供:Separe time(閉鎖)Nature